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** vanish into the blue **身辺雑記。
郵活とか読書記録とか、日々の雑事を備忘録的に。 2013.12.30 Monday
06 ゾロ関連の書籍等について補足
マッカレーは、戦前、国内外の探偵小説を紹介していた雑誌『新青年』にて「地下鉄サム」シリーズが発表されて以降、『双生児の復讐』などの作品が江戸川乱歩によって翻案されたり、三上於菟吉やその他の作家たちに影響を与えたり、日本における大衆小説の成立に大いに寄与した作家のひとりだった。
『快傑ゾロ』については、小説の翻訳・出版よりも、アメリカで制作された映画(1921年封切の「奇傑ゾロ」)の公開、そしてその翻案(1923年封切の「怪傑鷹」)の方が先だったが、先にも挙げた『双生児の復讐』や『黒星』といった作品は、戦前から戦後にかけて、複数の訳者や出版社から、また、特に子ども向けの探偵小説(あるいは名作)全集的な形としても繰り返し刊行されている。このことは、マッカレーが日本においてそれなりに認められていたということの証左であるといえると思う。 にもかかわらず、マッカレー(あるいは「ゾロ」)に関する日本語の文献といったら、単行本のあとがきや解説を除けばほぼ皆無。単行本などもほとんど絶版。さびしいなぁ。 で。 私は何をしたいのかというと、漠然とだけど、「ゾロ」を中心にマッカレーの創作物が日本でどのように受容され、影響を与えてきたか、みたいなことを考えてみようかなぁ、と。 そういうわけで、まずはゾロ関連の書籍等の一覧を作ってみたのである。 ギリギリ生誕130年にセーフか(苦笑)。 マッカレーの作品については、日本では「ゾロ」よりも「地下鉄サム(Thubway Tham)」シリーズの方がなじみ深いよう。マッカレーが「地下鉄サム」シリーズを発表したのが1919年。日本では、早くも1922年に雑誌『新青年』において紹介されているが、ゾロの初めての邦訳は1959年である(I-1『世界大ロマン全集』第58巻)。 アメリカにおいてマッカレーによる「ゾロ」の物語が最初に発表されたのは、1919年8月9日のAll-Story Weekly 誌上だった(ちなみに、日本で放映されたアニメ「快傑ゾロ」で、ロリタが「ディエゴは8月生まれの獅子座」と発言しているが、これがその由来だろう。気づいたとき思わずニヤリ。以来、私はひそかに8月9日をディエゴの誕生日だと決めつけている)。当初のタイトルは“The Curse of Capistrano”(「カピストラノの疫病神」)で、後に(単行本刊行時?)“The Mark of Zorro”と改められた。 ダグラス・フェアバンクスの映画「奇傑ゾロ」の日本公開が1921年というのも併せて考えると、日本での出版は遅いような気がする。本当に1959年なのかな。同じマッカレーの『双生児の復讐』と『赤い道化師』は『新青年』に載ってるんだけどなぁ。でも、漫画や児童書の類では、1948年に、中井矢之助『少年快傑ゾロ』(II-1)、 西田静二『快傑ゾロの勝利』(II-3)なども見られる。映画に基づいて構成されたものか。 I-1 『世界大ロマン全集』について この全集は、1956-59年にかけて東京創元社から全65巻が刊行された。新書版サイズで函入り。マッカレーの『怪傑ゾロ』、『地下鉄サム』のほか、A・デュマ『鉄仮面』、『巌窟王』や、ヴェルヌ『八十日間世界一周』、呉承恩『西遊記』、オルツィ『紅はこべ団』などがある。多くが後に創元推理文庫版として刊行されている。 「その国民全部が熱狂的な愛読者であり、その物語の主人公たちは国民的英雄であり、憧憬の的であるような人間の行動と知恵の勝利とを讃えた小説、世界大ロマン全集はそのようなロマンの生命である真の面白さを以て全世界を魅惑してきた世紀のベストセラー、一流画家の多色デザイン、家中で一生楽しめる大ロマン全集」 (『世界大ロマン全集』解説より) この時は「怪傑ゾロ」と表記されているが、1969年に創元推理文庫の刊行時には「快傑」の表記となっている。訳者の井上一夫(1923-2003)は、創元社や早川書房などでミステリーを多く翻訳している。 II 漫画・ジュブナイル版などについて 先述のとおり、1948年、「世界大ロマン全集」に先駆けて、榎本書店、瑶林社といったところから(ちなみに両社とも大阪の出版社らしい)出版されている。II-1〜4は「プランゲ文庫デジタル児童書コレクション」(http://digital.lib.umd.edu/ 2013年12月25日閲覧)より。国際子ども図書館にマイクロがあるみたいなので、いつか見てみたい。 他に、漫画雑誌の付録やディズニー絡みのものもある。ここに挙げているものは、現在販売されている古書のデータベースが検索できる「日本の古本屋」(http://www.kosho.or.jp/top.do)で探したものも含まれている(随時更新されているので、今検索しても見つからないものもある)。ちなみに『冒険王』の付録(II-6)は、10.000円の値がついていた。 IV 映画関連について 映画関連は本気で探せばもっとあるはず。でも私が映画にそんなに興味がないのでこれくらいで。ちなみに、ダグラス・フェアバンクス「奇傑ゾロ」はパブリックドメインだそうで。インターネットアーカイブで視聴可能(http://www.archive.org/)。 映画関連で小ネタを一つ記しておくと、1923年末に封切られた「怪傑鷹」(脚本:寿々喜呂九平、監督:二川文太郎、出演:高木新平、阪東妻三郎ほか)は、1921年公開の「奇傑ゾロ」を翻案したもの。内容としては「スピード感の快い活劇映画」で、「小柄で身軽な高木新平が覆面、黒装束で軽快に疾走し跳躍し、川のなかで妻三郎の武士と激しく闘う」(足立巻一「牧野映画と少年」『日本映画の誕生』講座 日本映画1 岩波書店 1985年10月p.154)とのこと。原作小説の翻訳よりも映画の翻案が先だったようだ。 とりあえず、こんなところで。 2013.12.29 Sunday
05 マッカレー生誕130年によせて 〜ゾロ関連書籍等一覧
世界的に有名な「快傑ゾロ」の原作者であるジョンストン・マッカレー(Johnston McCulley)は、1883年2月2日、アメリカ合衆国イリノイ州オタワに生まれた。つまり、今年(2013年)めでたく生誕130年を迎えたことになる。
このマッカレー、およびマッカレーが生み出した「ゾロ」というキャラクターについて、私は大変興味を覚え、ここでもちまちまと雑文を書いてきたりしている。しかし、生誕130年という節目の年に至って、何かもうちょっとちゃんとしたものを残しておきたいと思ったのだけど果たせず……。日本で刊行された書籍の目録くらいはまとめたいと考えていて、作業中だったのに、まさかのUSB破損に見舞われ、すっかりやる気をなくしてしまったという体たらく。 デジタルは脆い!過信するなかれ!!! それはさておき。 日本で出版されたゾロ関連の書籍等一覧をまとめてみた。 マッカレー全般には手が回らなかったので、とりあえず、ゾロ関連のみ。 インターネットで調べられる範囲なので、遺漏も多いはず。 でもないよりはマシ。自分の覚書程度に。 ***** ○編著者等『タイトル』(『所収本タイトル』、巻号等)出版社 出版年 の順に記載。 ○*が付いているものは入手済みまたは既読。 ○「怪傑」あるいは「快傑」、およびマッカレーの表記については、その本の表記に従った。 発音的にはマッカリーが近いと思うが、普通はジョンストン・マッカレーと表記されている。 I まずは翻訳書 *1. ジョンストン・マッカレー/井上一夫(訳) 『怪傑ゾロ』 (『世界大ロマン全集』第58巻) 東京創元社 1959年 ※ちなみに定価210円! *2. J・マッカレー/井上一夫(訳) 『快傑ゾロ』 東京創元社(創元推理文庫) 1969年12月 *3. ジョンストン・マッカレー/広瀬順弘(訳) 『快傑ゾロ』 角川書店(角川文庫) 1975年6月 4. ジョンストン・マッカレー/広瀬順弘(訳) 『快傑ゾロ』改版 角川書店(角川文庫) 1998年8月 5. J・マッカレー/井上一夫(訳) 『快傑ゾロ』新版 東京創元社(創元推理文庫) 2005年12月 II 漫画・ジュブナイル版など(雑誌の付録として出されたものもあり) 1. 中井矢之助 『少年快傑ゾロ』 榎本書店 1948年5月25日 2. 中井矢之助 『少年快傑ゾロ』 榎本書店 1948年9月15日 3. 西田静二 『快傑ゾロの勝利』 瑶林社 1948年6月20日 4. 西田静二 『快傑ゾロ復讐鬼』 榎本書店 1948年11月1日 ※『快傑ゾロの勝利』続編 5. ウォルト・ディズニー(文)/藤田茂(画) 『ディズニー長編漫画3 快傑ゾロ』 トモブックス社 1959年2月 6. 西田靖(文)/林朝路(画) 『冒険文庫 怪傑ゾロ』 (『冒険王』1960年12月号(12巻12号) 秋田書店 1960年12月 付録) 7.久米元一(文)/古賀亜十夫(画) 『快傑ゾロ』 講談社の絵本 ゴールド版 119(第6巻第14号) 講談社 1963年7月 *8. マッカレイ(原作)/平塚武二(訳・文) 『快傑ゾロ』 (川端康成ほか監修 『少年少女世界の名作文学』11 アメリカ編 2 小学館 1965年) ※原作をもとにして、子供向けに加筆。伊勢田邦彦の挿画 9.「怪傑ゾロ」 (ウォルト=ディズニースタジオ(編)/柴野民三ほか(著) 『物語の世界 ディズニー名作図書館』 講談社 1972年) 10. 「ウオルトディズニーの怪傑ゾロ」 (『ディズニーの国』 1973年5月号(第4巻第5号) リーダーズダイジェスト日本支社 1973年5月 付録) ※漫画。著者等不明。このほか、同年7月号と11月号にも同様の付録があったらしい(「日本の古本屋」に挙がっている)。 11. 『怪傑ゾロ』 (名作選定委員会(編) 『少年少女世界の名作文学』6 アメリカ編)小学館 1974年 ※8の再編版か III 他作家による関連作品 1. ジェイムズ・ルセーノ/奥村章子(訳) 『マスク・オブ・ゾロ』 早川書房(ハヤカワ文庫) 1998年9月 ※映画「マスク・オブ・ゾロ」のノベライズ版。2代目ゾロが活躍するというオリジナルストーリー *2. イサベル・アジェンデ/中川紀子(訳) 『ゾロ 伝説の始まり』 上・下 扶桑社(扶桑社ミステリー文庫) 2008年4月 ※ディエゴがいかにして“ゾロ”になるに至ったかを描く。アメリカ先住民の習俗などを絡めながら、スペイン留学を経てディエゴがゾロとしての特異な人物像を形成する過程を追う 3. スコット・シエンシン/富永和子(訳) 『レジェンド・オブ・ゾロ』 竹書房(竹書房文庫) 2006年1月 ※映画「レジェンド・オブ・ゾロ」のノベライズ版。「マスク・オブ・ゾロ」の続編 IV 映画に関するもの(パンフレットは除く) 1. 児玉数夫 『1940年代の洋画』 河出書房新社(河出文庫) 1989年4月 ※1940年「快傑ゾロ」を紹介 *2. 山田宏一 『ビデオラマ 空想の映画館記憶の映画館』 講談社 1993年12月 ※快男子ダグラス「奇傑ゾロ」「海賊」 *3. 松田集(編) 『帝都封切館 戦前映画プログラム・コレクション』 フィルムアート社 1994年9月 ※1921(大正10)年「奇傑ゾロ」 *4. ジョルジュ・サドゥール/丸尾定ほか(訳) 『世界映画全史 8 無声映画芸術の開花 ―アメリカ映画の世界制覇〔2〕 1914-1920』国書刊行会 1997年12月 ※「<シーザーたちよりも暴力的な>ハリウッド(アメリカ 1918-1920)」で、あらゆる面で成功を収めた「奇傑ゾロ」について紹介する。ダグラス・フェアバンクスの最高潮を示すとともに、アクションや義賊としての主人公イメージを確立し、その後の映画に多大な影響を与えたとして、傑作と評価される *5. ジョルジュ・サドゥール/丸尾定(訳) 『世界映画全史 11 無声映画芸術の成熟 ―ハリウッドの確立1919-1929』 国書刊行会 1999年12月 ※「スターの映画」で、ダグラス・フェアバンクスについて詳述。そのなかで「奇傑ゾロ」について触れている V その他 *1. 長谷部史親 「ジョンストン・マッカレー」(『欧米推理小説翻訳史』 本の雑誌社 1992年5月) ※初出は『翻訳の世界』1990年6-9月号 *2. 加藤薫 「「怪傑ゾロ」の研究事始め」 (『麒麟』11号 神奈川大学経営学部十七世紀文学研究会 2002年3月 ) *3. 上西哲雄 「ゾロの生誕地としての文学と映画の交差点」 (西前孝(編)『交差するメディア アメリカ文学・映像・音楽』 大阪教育図書 2003年3月) 随時、追記予定。情報提供大歓迎です。 2012.06.19 Tuesday
04 マッカレイの小説じゃあるまいし・続
◆「類別トリック集成」における分類
話を江戸川乱歩に戻そう。乱歩が書いた探偵小説についての評論集をまとめた『続・幻影城』に、古今東西の探偵小説に出てくるトリックを分類整理した「類別トリック集成」(初出は雑誌『宝石』の1953年9,10月号。『続・幻影城』に収録されているのは、それを補丁したもの)がある。これは私の大好きな中井英夫の『虚無への供物』にも出てくるのだが、それはさておき。 「類別トリック集成」で、マッカレーの『双生児の復讐』は、「〔第一〕犯人(又は被害者)の人間に関するトリック(二二五例)」のうち、「(A)一人二役(一三〇例)」の「(7)替玉(二人一役と双生児トリック)(一九例)」に分類されている。替玉のトリックについては、「他人を自分の替玉にしてアリバイを作り嫌疑を免れる。そのほか一人二役というよりも二人一役と考えた方がふさわしい各種トリック。双生児が二人一役を勤める〔原文ママ〕トリックもここに加えた」としている。 ◆「二人一役」に魅了された作家 この「二人一役」というトリックについて、乱歩は桃源社版の『江戸川乱歩全集』の「猟奇の果」あとがきで、「私を評する人が「彼の作品は大部分が一人二役かその変形にすぎない」といったのは当たっている」と書いている。 乱歩としては、一人二役物は、乱歩自身で書くのも他作家が書いたものを読むのも好きだったのではないだろうか。特に『双生児の復讐』については、自ら児童向けにリライトしているくらいなので、「一人二役好き」の乱歩も愛着を持っていたのだろう。マッカレーの作品は、私は『快傑ゾロ』と「地下鉄サム」シリーズ数編と『パリの怪盗』(Black star)だけしか読んでいないけど、ゾロだって一人二役物だし。乱歩にとって、マッカレーは、同じように「一人二役に魅せられた作家」として気になる一人だったのかもと想像すると、乱歩もマッカレーも好きな私は何だか嬉しくなる。 ◆マッカレーの再評価へ 私はまだ『双生児の復讐』を読んでいないので、「類別トリック集成」の分類に関しては何とも言えないけど(早く読もう…)、マッカレーの小説が乱歩の目に留まり、トリックが分析され、その評論のなかに登場することに「おおっ!」と思うわけで。 『双生児の復讐』についてさらっと見てきただけでも、乱歩に評価されていたり、日本の大衆小説へも影響を与えていたりと、マッカレーは決して軽視していい作家じゃなさそう。「ゾロ」というキャラクターばかりが有名で、作家自身はアメリカでも評価されていないらしいけど。また、「地下鉄サム」をはじめ戦前の日本でこれだけマッカレーの小説がもてはやされたのはなぜか。マッカレーの小説の「日本人受けする要素」というのはどこにあったのか(もちろん翻訳者の工夫もあっただろうけど)。そもそも「ゾロ」というキャラクターは日本どころか世界規模で大人気だ。その「ゾロ」の生みの親であり、日本においては探偵小説や大衆小説の発展に大きな影響を与えた作家が、このまま忘れ去られてしまうのは何だか寂しい(ので、再評価されればいいなぁ ←と、あくまで他力本願)。 ◆参考 ・江戸川乱歩『孤島の鬼』(江戸川乱歩全集 第4巻 光文社文庫2003年8月) ※「猟奇の果」は、月刊誌『文藝倶楽部』(博文館)に1930年1-12月まで 連載された後、1931年に博文館から刊行された(「解題」より) ・江戸川乱歩『続・幻影城』(江戸川乱歩全集 第27巻 光文社文庫2004年3月) ・長谷部史親『欧米推理小説翻訳史』(本の雑誌社 1992年5月) ※初出は『翻訳の世界』1990年6-9月号 2012.06.18 Monday
03 マッカレイの小説じゃあるまいし・・・
『快傑ゾロ』って知っていますか??
アントニオ・バンデラス主演の映画「マスク・オブ・ゾロ」(1998年)および続編の「レジェンド・オブ・ゾロ」(2005年)の原作、というと「ああ、あれね」という方もいらっしゃるだろうか。 1996年にNHKでアニメーションを放映してました、というと「おおーっ!懐かしい!!」と思われる方。いらっしゃったら、是非お友達になってください。 『快傑ゾロ』は、ジョンストン・マッカレー(McCulley, Johnston 1883-1958)というアメリカの作家が生み出した世界的ベストセラー小説。発表当初から現在に至るまで、世界各国で数多くの映画やテレビシリーズ、アニメーションなどなど様々なメディアに展開している。 「『快傑ゾロ』とその周辺」について書こうと思っていることは多々あって、実際に書き進めていたんだけど・・・ファイルを保存していたUSBに不具合が生じ、ちょっと途方に暮れていました。ファイルの大半が壊れてしまい、まあ、頑張って修復しようと思っていた矢先、光文社文庫版の乱歩全集の第4巻『孤島の鬼』に収録されている「猟奇の果」に思いがけなくマッカレーの名が出てきたので、そのことを書いてみる。 とはいえ、今後もう少し調べていくための整理篇って感じで(だいたい「猟奇の果」に出てくるマッカレーの小説まだ読んでないもの)。 ********************* ◆双生児といえばマッカレー? 「猟奇の果」は、主人公・青木愛之助が九段坂で友人の品川四郎に瓜二つの人物がスリを働いているところを目撃したことから始まる。青木が見た男は品川四郎なのか全くの別人なのか。悩む青木がつぶやくのが次のセリフ。 「馬鹿馬鹿しい、マッカレイの小説じゃあるまいし、あんなに寸分も違わぬ人間が、この世に二人いるものだろうか」 (『江戸川乱歩全集 第4巻 孤島の鬼』 光文社文庫 2003年8月 p.349) ここには、註釈が付いていて、 「マッカレイの小説 アメリカの小説家ジョンストン・マッカレー(Johnston McCulley 一八八三〜一九五八)の『双生児の復讐』(一九二七)。一九五五年に乱歩名義で『暗黒街の恐怖』(のち『第三の恐怖』)として児童向きにリライトされたこともある。原著者の代表作は『快傑ゾロ』だが、日本では「地下鉄サム」シリーズの多くの短編が「新青年」に訳出されて親しまれた。あとに出てくるサムとクラドック刑事はその登場人物」(平山雄一) とある。 『猟奇の果』(1930)も『双生児の復讐』(1927)も同じ博文館という出版社から刊行されているので、『猟奇の果』の読者が『双生児の復讐』も読んでいた可能性は高そう。当時の探偵小説界では、双生児が出てくる小説=マッカレーの『双生児の復讐』というのは常識的なことだったのかも。 ちなみに、サムとクラドック刑事が出てくるのは、九段坂の一件から一ヶ月後、青木が百貨店の人込みのなかに再び品川のソックリさんを見つける場面。 「愛之助は地下鉄でサムを見つけたクラドック刑事の様に目を見はった」 (前掲乱歩全集 p.351) サムは地下鉄を専門に仕事をするスリで、クラドックはそれを追う刑事。九段坂の品川ソックリさんもスリを働いていた、ということで「地下鉄サム」が容易に連想されるのだ。 ◆『双生児の復讐』 「地下鉄サム」はここではおくとして、『双生児の復讐』について。 原作はジョンストン・マッカレーのThe Avenging Twinsで、長谷部史親『欧米推理小説翻訳史』の「ジョンストン・マッカレー」の章によると、アメリカで雑誌に掲載された後、1927年に2冊の本にまとめられたという。 日本では1924年に雑誌『新青年』誌上で、「新春増刊探偵小説傑作集」(5巻2号)には和気律次郎の訳で掲載され、1926年2月号(7巻2号)には小川一水の訳で掲載されている(中島河太郎編『新青年傑作選 第5巻』(立風書房 1991年)の「新青年所載作品総目録」より)。その後、和気律次郎訳『双生児の復讐』(探偵傑作叢書 博文館1927年)が出版された(1930年には春陽堂からも『探偵小説全集15』として出ている)。 私が未読なので、大変心苦しいけれど前掲の長谷部の本からストーリーを紹介する部分を引くと、 「この物語の骨子は、早くに父を失って伯父に育てられたピーターとポールの双生児が、大恩ある伯父を滅亡に追い込んだ六人の悪徳実業家や政治家を相手に、それぞれ最も効果的な手段で痛快な復讐を遂げてゆくというものである」 と、タイトル通りの双子による復讐譚ということらしい(筋だけ聞くと何だかありきたりな気もするが・・・それでも面白そうではある)。 ◆『双生児の復讐』と日本の大衆文学 さて、大正期の日本において、西洋のいわゆる大衆文学が紹介されるようになると、これらを吸収、咀嚼した日本人作家たちによって日本独自の大衆文学が生みだされてきた。もちろんマッカレーも日本の大衆文学の成立に少なからぬ影響を与えた一人であり、長谷部は、『双生児の復讐』が、前田曙山「落花の舞」(1924)、三上於菟吉「敵討日月双紙」(1925)「雪之丞変化」(1934)、下村悦夫「彼岸千人斬」(1925)などへ影響を与えたことを指摘している。 さらに戦後、光文社版の乱歩全集の註釈にあるように江戸川乱歩によるリライト作品『暗黒街の恐怖』(世界名作探偵文庫 ポプラ社 1955年)および『第三の恐怖』(世界推理小説文庫 ポプラ社 1962年)が出版されるに至る、と。 マッカレーの名を知る日本人は少ないだろうけど、そのエッセンスは日本の大衆小説のなかにも息づいていて、長谷部の言葉を借りれば、「こうした状況を通して、実際に『双生児の復讐』を読むと読まざるとにかかわらず、日本人の心の中にはマッカレーという作家が、いつしか知らず知らずのうちに浸透していったのである」ということになるだろう。 2012.03.03 Saturday
02 ゾロにまつわる思い出のようなもの
※原作には「ゾロの正体は?」とドキドキしながらストーリーを追っていく楽しみがあるんだろうけど、ここでこの物語について書くからにはゾロの正体に触れないわけにはいかない(じゃないと話が進まない!)。まあ、そこを分かってて読んでも十分面白いし、この物語を楽しむポイントはたくさんあるはずなので、気にせずネタばれしていこう。あしからず。
01でも触れたとおり、私がゾロを知ったのは1996年。全52話のアニメーション「快傑ゾロ」だった。子供向けということで(製作のMONDTVによると6-12歳を対象としているらしい)、原作と異なる部分もありながらもその魅力を損なうことなく、分かりやすく面白くまとめられた作品だった。 並はずれた知略と剣術でもって権力をかさに弱者を虐げる者たちを断罪する、ひたすらカッコいいゾロ。その正体は大農場主の御曹司・ディエゴ。彼は、周囲に自分がゾロだとばれないよう普段は臆病で穏やかな青年を演じている(たまに天然)。この二面性がまた魅力。そして、リトルゾロに扮してゾロを助ける、ディエゴの弟のような存在・ベルナルド。気が強くて心優しいヒロイン・ロリタ。敵対する軍人代表・レイモン司令官。その腹心の部下・ガブリエル少尉。人の良いゴンザレス軍曹。それぞれのキャラクターも活き活きとして魅力的で、すごく惹きこまれた。ツッコミどころも多かったけど。 さて、このアニメがとても面白かったので、原作が読みたくなった当時の私は、早速、図書館へ足を運んだ。地元にはなかったので、県立図書館から取り寄せてもらい、一気に読んだ。読後、どうしても手元に置いておきたくなり、絶版になっていた原作本を求めて古書店を探し回ったのも良い思い出。運よく入手した創元推理文庫版(井上一夫訳)と角川文庫版(広瀬順弘訳)は、引っ越すたびに「やはりどちらも捨てられない!」と、未だに自室の本棚に並んでいる。 創元推理文庫版(左)と角川文庫版(右) 私は映像等で知って気に入った作品は、原作があれば必ず読むようにしている。「観る」より「読む」方が好きだし、面白いと信じてもいるので。原作が面白ければ、その作品の背景(歴史や文化、地理、習俗などなど)が分かるような本、その作品を書くにあたって作家が参考にしたと思われる本、その作品の影響を受けて生まれた本、または同じ作家の別の著作……といった具合に、そこからどんどん読むものを広げていく。 ともかく、私にとって『快傑ゾロ』は、「広げたくなる」タイプの物語だった。……だったはずなのだが、当時、マッカレーに関する情報はほとんどなく(私の情報検索能力もなかったが)、あっさり挫折。読んだのは学校の図書室にあった『パリの怪盗』のみ。細かい内容は忘れてしまったが、面白かったのは覚えている。あと、ラストが「なんか、ソレずるくね?」みたいなオチだった気が……。ああ、やっぱりストーリー覚えてない(数年前、教育実習で母校にお世話になった際、ふと思い出して図書室へ行ってみたが、もう置いてなかった。さびしい)。 今はインターネットである程度の情報は簡単に手に入れることができる(便利な世の中になったものだ!)。各種の公的なサイトからゾロファンによる私設サイト(アニメ版ゾロのファンサイトも含む)まで、幅広い情報があふれている。もっともマッカレーの生涯については、特に小説家になる以前のことは残された記録が少なく、わからないことも多いようだが。 角川文庫版(上)と創元推理文庫版(下)カバー。 どちらも映画「アラン・ドロンのゾロ」の写真が使われている。 ちなみに、私は角川文庫のデザインの方が好き。 そういえば、「装丁が違うから!」、「版が違うから!」などと言って同じ本を集めてしまう私の癖は、思えば、訳者と出版社の違う2種類の『快傑ゾロ』を手にした時から始まったのかもしれない……(しかも現在それぞれ「新版」と「改版」が出ているらしく、本当はこれも欲しい。読み比べたい。でも4冊はさすがに自重したい!)。 そうそう。ネットが便利という話だが、昨年末ふと原作を読み返してみて、このアニメが無性に見たくなったが、残念ながらDVDなどは販売されていない。そこで早速ネットで検索。SNSだ、ツイッターだ、と情報が氾濫するこのご時世。もしや、探せば見ることができるのでは、と・・・ あった! しかも、全話!!! リアルタイムで見ることができなかったものも含めて全て見た。懐かしく、そして変わらず、いや、むかし見ていた以上に面白かった。おかげでハマリなおして、こんな雑文書くに至ってるわけだけど。いや、まったく、便利な世の中だ。 参考 ・Z会(快傑ゾロ同盟)(管理人=桟田バーバラ様): http://heponet.web.fc2.com/ アニメーション「快傑ゾロ」の放映から16年。こんなにもゾロファンがいるのかと勇気づけられる思い!アニメ版について、そのほか小説や映画などについても詳しい、ゾロ愛あふれるサイトです。 ・MONDTV: http://www.mondotv.it/MondoTVspa/sitoweb_mondotv/paginaIniziale.php アニメーション「快傑ゾロ」製作。イタリア語と英語。 ・アニメが見れる動画サイト: 載せると差支えがありそうなのでURLは割愛。検索して下さい。多くの方々に見たいただきたい作品です。 2012.02.24 Friday
01 現代にも通じる?! 『快傑ゾロ』
先日、グラミー賞の授賞式が行われた。例年なら特に興味も持たないところだが、今年はひそかに注目していた作品がある。それは、Best Spoken Word Album (Includes Poetry, Audio Books & Story Telling)部門にノミネートされたBlackstone Audio Inc.のThe Mark Of Zorro(Val Kilmer & Cast)である。残念ながら受賞は逃してしまったが、The Mark Of Zorroという物語がオーディオドラマ化され、グラミー賞にノミネートされたということは注目に値する、と勝手に思う。
舞台は18世紀末、スペイン統治下のカリフォルニア。弱きを助け強きをくじく、軍の圧政に一人立ち向かう覆面の英雄“ゾロ”。不当に虐げられた人々のために自らの剣によって正義を体現する彼の正体は誰も知らない。 総督の怒りを買い、没落に追い込まれたプリド家の一人娘ロリタには2人の求婚者がいた。音楽と詩を愛する穏やかな青年だが、暴力沙汰を嫌い、男らしい勇気や行動力に欠ける大農園の御曹司ディエゴ。若くして砦の指揮官を務める、総督の覚えがめでたい青年将校レイモン。ロリタの両親は娘がこのどちらかと結婚してくれればプリド家を再興できると考えるが、ロリタが愛したのは2人のうちのどちらでもなく、反逆者として軍に追われるゾロだった。 J・マッカレー/井上一夫(訳)『快傑ゾロ』東京創元社(創元推理文庫)1969年12月 アメリカの作家ジョンストン・マッカレー(McCulley, Johnston 1883-1958)によって書かれたThe Mark Of Zorroは、20数か国語に翻訳され、およそ5千万部を売り上げたという世界的なベストセラー小説である。さらに発表当初から現在に至るまで、映画やテレビシリーズ、アニメーション、舞台、漫画、ゲームなど様々なメディアに展開している。この物語が世界各国でどのような発展をみせたかについては、Zorro Productions, Inc.(以下ZPI)に詳しい。日本では1921年にダグラス・フェアバンクス主演の映画「奇傑ゾロ」が公開され、戦後、東京創元社の『世界大ロマン全集』(全65巻 1956-59年)で紹介されたのを皮切りに「快傑ゾロ」の訳で親しまれ、ジュブナイル版やアニメーション等も発表されている。近年では、この物語を元にしたアントニオ・バンデラス主演の映画「マスク・オブ・ゾロ」(1998年)および続編の「レジェンド・オブ・ゾロ」(2005年)が日本でも公開されている。さらにZPIによると、現在2つの映画会社が新たなゾロの映画を企画しているとか。 ジョンストン・マッカレー/広瀬順弘(訳)『快傑ゾロ』角川書店(角川文庫)1975年6月 マッカレーによって最初のゾロの物語が発表されたのが1919年。およそ100年を経ようとしている今なお、未だにこれだけの企画が立ち上がり、世代や国を超えて多くの人を魅了し続けているのは何故か。このことについて、ZPIは、ゾロというキャラクターが数多く存在するヒーローのなかでも非常に多面的であるという点を挙げている。智勇兼ね備えた魅力的な“ゾロ”というキャラクター。アクションあり、ロマンスあり、ユーモアありのストーリー。自由を標榜し、悪政を敷く権力者に敢然と立ち向かうというのは、シンプルかつ、いつの時代にも普遍のテーマである。だからこそ、それぞれの国や時代の潮流に応じて再解釈され、人々の共感を呼び続けたのだろう。 私がゾロに出会ったのは、1996-97年にかけてNHKの衛生アニメ劇場にて放映された『快傑ゾロ』と題されたアニメーションだった。最近、このアニメを全話通して見る機会を得て、当時、夢中になって原作を探して読んだことなど思い出して、ゾロ熱が再燃したという次第。インターネットで少し検索するだけで、アニメ版の「快傑ゾロ」について、原作について、当時はほとんど情報のなかった原作者のジョンストン・マッカレーについて、などなどいろんな情報が得られ、なかにはすごく興味の惹かれる事柄もあり(マッカレーと雑誌『新青年』とか、マッカレーの小説を江戸川乱歩が翻案しているとか)、自分なりにもうちょっと突っ込んで「ゾロ」やマッカレーのことを調べてみたくなった。そんなわけで、興味の向くまま軽い気持ちで調べて書き綴ってみようと考えている。 いつまでこの熱が続くか分からないけれど。 参考(次回以降ちゃんと載せるけど、とりあえず) ・Zorro Productions, Inc.(http://www.zorro.com/) ・Wikipedia 該当ページほか |